ゼウ

ゼウ
それは嵐の夜
魔物がはびこる王国の妃が第4王子を懐妊した時のこと・・・
預言者でもある彼女は、お腹に宿った子の未来を感じていた。
「この子はいずれ、世界を救う存在になるでしょう」
魔物を使い、この世を支配しようとする悪しき心の者たちを倒す英雄・・・
それは単なる予言ではなく、いずれ生まれてくる我が子への、母の期待でもあった。
第4子の誕生を、国王も民衆たちも心待ちにしていた。
それは、その子の前に生まれた3人の兄たちも同じであった。
ところがしかし、身ごもったお妃の体調は、日に日に悪くなるばかり。
最初の内は、単なる「つわり」だと思われた。
気分が悪くなったり、食欲がなくなったり、摂取した食べ物を吐いたりしてしまう症状だ。それは妊娠したら避けては通れないもの。
3人の兄を身ごもったときも、彼女は同じ症状に悩まされていた。
だから皆、女王の体を平常時以上に気遣いはしたがそれ以上の心配はしなかった。
なるべく消化にいいものを用意したり、綺麗な音楽を聴かせたり・・・妃も周りの気遣いに顔を綻ばせた。
しかし・・・
「うぅ・・・」
「お妃さまっ?!」
ついに彼女は倒れてしまった。お腹の子を守るように、手で覆いながら。
「妃はまだ治らんのかっ?!」
「・・・はい」
王の罵声に、家臣が申し訳なさそうに答える。
あれから3日。 
お城の病室で女王は寝ていた。高熱を出し、悪夢にうなされたようにうめき声をあげながら。そんな彼女の様子を、誰よりも心配していたのが他ならぬ国王であった。病室の前から(万全を期すため、面会拒否を医者に命じられている)彼女の様子を覗いてはうろうろ。覗いてはうろうろ。
「妃はずっとあの調子だ! つわりでここまでなるものなのかっ?」
「そ、それは・・・」
しまいには家臣に八つ当たり。
魔法王国を統べる「王」とは言えど「男」である彼には、女の体のことはさっぱりなのであった。
「貴様っ! それでも余の家臣なのかっ?! なんか言ったらどうなんだぇえ?!」
「そ、そそそそそんなことを仰られましても」
しかしその従者も「つわり」を経験したことがないのだから答えようが無かった。そもそも男なのだから経験しようがない。
「むぅううう!」
王は動揺をあらわにしていた。顔を強張らせ額に汗かくその姿は、最早「王」ではなく、自分の無力を嘆くただの男であった。
「まったく・・・医者は何をやっておるのだ!」
彼の心配も無理はなかった。彼女はもう3日も飲まず食わずのままだ。おまけに大量に汗をかき、うめき声をあげ続けているのだ。もはや体力の限界も近いであろう。
「このままでは・・・」
家臣の言葉に、王の頭にも不吉な言葉がよぎった。
このままでは――妃は死ぬ。
「そんなのは絶対認めん!」
王は叫んだ。
その時だった。
「フォッフォ・・・お困りのようじゃの」
灰色のフードをかぶった小柄な老人が、彼らの前に現れたのだった。
「何者だ? どうやってここへ入った?!」
王の前に、従者が割って入り武器を構えた。
老人は真っ白な長いひげをあごに蓄えており、目元はフードに覆われていて見えない。その隙間からわずかに見える肌は土気色。足腰も相当弱っているのだろう。かなりの猫背で、左手には木製の杖を持っている。声は高いような低いようなしわがれ声であり、男か女かさえ分からない。
(この老人・・・見るからに妖しい。まさか、魔物かっ!)
家臣は懸念した。
城の入り口には門番が立っており、それ以外の場所は成人した男の身長の3倍はある城壁で囲まれている。それも単なる壁ではない。対魔物用に作られた、魔封じの力を持つ結界である。
(まさか、門番や魔封じの結界を破って現れた・・・? いや、まさか、そんなはずは・・・)
どうでるべきか、家臣が老人と睨み会いを続けていると、
「まぁ、そんなに身構えなくとも良い。わしはただ『お妃様を救う方法を持参した』と言って門を通してもらっただけじゃ」
「――でたらめを――!!」
「なにっ?! それは真かっ?!」
「王っ?!」
老人の言葉に食いついたのは他でもない、国王だった。
「お待ちください、王! これは明らかに罠です!!」
家臣が声をあらげたが、王は聞く耳もたず。老人に一歩近づいて、
「教えてくれ・・・妃は・・・どうすれば助かるのだ・・・?」
懇願するかのようにそう問うた。
「・・・では、申し上げます」
老人は入り口から、ちらりと妃の姿を見やる。
「王様もお察しの通り、原因はお腹の皇子にありますじゃ」
「しかし、単なるつわりであそこまでなるものか――」
老人は枯れ木のような指をニ、三振り、
「無論、単なるつわりなどではありませぬ・・・」
「では、何故――」
「お妃様を助けたいのなら方法はただ一つ」
老人はしれっと、何者も恐れずその言葉を言ってのけた。
「母体を助けたければ、お腹の子を殺しなはれ」
『なっ―――!!」
王も家臣も絶句した。王はみるみる顔を赤く染め、すぐさま老人の胸倉を掴んだ。
「そんなことができるか! 貴様っ! ここまで来て王である余をからかうつもりかっ! 極刑にしてやるっ!」
ところが、正体不明の老人は胸倉を掴まれたまま平然と髭をなで、
「何も『皇子の全てを殺せ』と申しているのではございません。殺すのは『半分』でよいのです」
「これ以上、戯言を申すなっ!」
従者も武器を無礼者へと向けた。
「皇子は予言どおり、世界を救う英雄としての質を持ったお方にございます。ですが・・・お妃様はそうではない、ということですじゃ」
「――なにっ?!」
王の顔は未だ赤い。
「皇子の魔力が強すぎるのです。母体の苦痛はお腹に突如現れた強大な魔力が原因・・・となれば、その魔力さえ消し去れば・・・」
「妃は・・・助かるっ?!」
王が呟いた。しかしその瞳に光は無く、虚ろな人形の様だった。
「王様っ??」
家臣が異変に気づく。
だが、
「城には腕利きの魔法医が大勢いると聞き及んでおります・・・。なあに、大丈夫ですじゃ・・・生まれる前の子供の魔力を捨てるくらい、造作もないこと・・・フォ・・・フォフォフォ…!」
老人の声がエコーの様に城中に響き渡る。
その声と共に、老人の姿は蜃気楼の様に消え果た。
王はすぐに、医者に命じた。
「母体を助けるため、お腹の子の魔力を切り離せよ!」
魔法医たちは顔を見合わせた。王宮直属の名医である彼らも、生まれる前の子供の魔力を切り落とす方法など、聞いたことがなかった。そもそも魔力だろうが体力だろうが、他人の能力の一部を切り離す方法などあるはずがない。
「お言葉ですが・・・王・・・」
「妃と子を助けるための唯一の方法だ! 出来ぬ者は極刑に処す!」
王の目がギラリと光った。まるでギロチンのようだった。誰も彼に逆らえない。魔法医たちは必死で『王命』を果たす方法を探した。逆らえば極刑だ。このまま妃を死なせても同じだろう。もう時間が無い。魔法医たちは命惜しさに、城中を駆けずり回った。
そして彼らの一人がついに見つけた。
城の図書館の奥の奥に隠された禁断の書の間・・・そこでついに、王の望みを叶える方法が載った本を見つけたのだ。
『禁断の書 魔力を半分にする呪術』
注意:これは生まれる前の子供にしか通じません。
どうやら大昔の大魔導師によって書かれたものらしい。魔法医たちはその本の記述にのっとって女王に「治療」を施したのだった・・・。
かくして。
妃の体調は回復し、無事に第四子を誕生させたのだった。
いずれ兄たちと共に英雄となるであろうその子には「アリエス」と名付けられた。
兄も、王も、国民も大喜び。
魔法医たちも、何事もなかったかのように王子の生誕を祝った。
しかし華やかな席の中で、重大な事が一つが見落とされていた。魔法医たちが女王とアリエスを救う為に利用したあの本である。
その本の最後には、こう記されていた。
『切り離された魔力は死する事なく生き続けます。生きて、本体を呪い続けるでしょう・・・いつまでも、いつまでも・・・』
ここは城とは少し離れた場所・・・
城が光なら、ここはまさしく『闇の世界』
かつて魔物だったモノの血と、肉と、異臭が漂う場所。
死骸は一体、二体の比ではなく、五万といた。
まるで討伐された魔物の全てがここに集められたように――。
その上を、薄紫の煙が、まるで死骸に群がる蝿のように滞っていた。
偶然ここに迷い込んだのであろうその煙に意思はなく、ただ当然のようにここに居座るだけ。
新たな風が吹けば、また新しい土地に飛ばされる・・・はずだった。
しかし、その「紫煙」が新天地を見つけることは、ついにない。
「フォッフォッフォ。待っておったぞ」
男でも女でもないしわがれ声。
城に現れた、あの老人がここへ来たのだった。
その正体は、魔物を使って世界を支配しようと目論む悪の集団の一員だった。
「第四子が我らを倒す存在だというのなら・・・我らもまたその力を利用しれやれば良いだけのことっ!!」
ローブの下に隠された瞳が「カッ」と光った。
彼の口から妖しげな呪文が紡がれると共に、切り裂かれた魔物の死骸がぷるぷると動き始めた。切り口と切り口が、糸に引かれ合う布のようにくっつきはじめた。しかしそれは足が手に、手に目玉がつくような、通常ならありえない整合の仕方だった。
水中を泳ぐ魔物のひれ、空を飛ぶ魔物の羽・・・違う魔物同士の部位も当然のようにくっついているその異形は、「合成獣」と呼ぶにはあまりにも不気味で不恰好であった。
よく見ると肉と肉は完全には繋がっておらず、切り取られた(今や腐敗した)断面をところどころ覗かせている。
しかし「異形の肉塊」は、その断面からあの紫煙を吸収していた。
いやむしろ、紫煙が自ら意思を持ち、猛スピードでそこへと吸収されているようであった
――まるで血肉を求めるように。
煙が完全に消えた後、そこにはもううごめく肉塊はなかった。
その代わりのように、一人の「少年」が立っていた。
蒼い服、闇色の髪と、血のように赤い真紅の瞳・・・。
あまりにも唐突な「彼」の出現。
そして死骸の喪失。
無論、彼が死骸を消し去ったわけではない。
彼は、彼こそは―――
老人は、少年へと言った。
「良いか・・・おまえは『殺されたアリエスの半分』だ。アリエスを母体とともに助けるために、おまえが犠牲にされたのだ」
「・・・・・」
少年は、答えない。
「おまえは『不要な存在』として父母に捨てられたのだ! ・・・どうだ、この世が憎いとは思わないか?  おまえには何も与えられないのに、アリエスだけが全てを独占しておる! 肉親からの愛も、民からの期待も!!」
少年は、無表情。
しかし突然、すっと手を挙げると、その掌に「闇」を生み出し――とある方向に向かって解き放つ!
答えはそれで、十分だった。
「ふむ・・・じゃあ決まりじゃの」
含み笑いする老人を、少年はただ無感動な目で見ていた。
感情表現に乏しい彼が「闇」を向けた方向――それは間違いなく、自分が生まれる「ハズ」だった城の方向だった。
捨てられた「アリエスの半分」は「魔物の死骸」を纏うことにより、自身もついに肉体を得た。
自ら名乗りを上げたのか、誰かがそう名づけたのか――その少年はいつの頃からか「ゼウ」と呼ばれていた。
アリエスとゼウ――「素」を同じくする彼らは魔物を倒すものと率いるもの、対極の存在として対立することとなる――。

・・・というわけで、オフ友の瑠那のオリジナルキャラクター、ゼウ君でした~☆

↑の文は瑠那からお聞きしたゼウ君の設定をもとに、私の妄想を付け加えてアレンジしたものです。

イメージと違っていたらごめんなさい・・・というか、思いっきり違うきゃも(^_^;)

そもそもアリエスの魔力を半分にするように言ったのは「妖しい老人」でもなんでもなかった気がします(滝汗)

では瑠那さん、魅力的なキャラをありがとうございました~☆


inserted by FC2 system